利用のために知っておきたいVRの負荷:オレゴン州立大学の研究から

 

ゴーグルを装着するだけで時間や空間を瞬時に飛び越えられるVR。

便利な未来のツールとして、ビジネスでも活用の可能性が広がっています。しかし、新技術を導入する前にはそのツールの安全性について、しっかり理解しておかなくてはなりません。

VRの安全性は、明らかになっているのでしょうか?VR使用について、オレゴン州立大学がまとめた発表をご紹介しましょう。

デジタルの安全基準:ゲームやブルーライトは身体に悪い?

「PCやスマホから発するブルーライトを浴び続けると目が悪くなる」、「TVゲームは情操教育によくない影響を与える」、そんな話を聞いたことはありませんか?

確かに、朝から晩までPCにかじりついたりゲームを何十時間もやり続けたりすると、心身ともに悪影響が出るかもしれませんが、身体的な疾患と結びつけるだけの証拠や研究はまだなされていません。

ブルーライト:失明の危険はないが適度な使用が求められる

2018年には、米国で「ブルーライトは失明を誘発する」という論文が発表されましたが、米国眼科学会(AAO)は、それを正式に否定しています。つまり、日常的に浴びる範囲であれば、失明の原因には(ほぼ)ならないということです。

しかし、就寝前にブルーライトを浴びすぎると入眠までに時間がかかるという研究結果も発表され、眠る前にPCやスマホを見すぎるのはあまり好ましくない可能性は示唆されました。

また、液晶画面を見続けるとまばたきが少なくなるため、ドライアイになるリスクは高くなるようです。

これは、PCがまぶしくならないような設定にしたり、座る高さ、周囲の明るさを工夫することで防ぐことができます。

適度に目を休めるなど、適切な利用を心がければ体調不良を招くものではありません。

 

ゲームプレイにはポジティブな影響もある

VR負荷

 

では、ゲームはどうでしょうか?

これに関しても、ゲームは攻撃性を助長する、死を軽くとらえるようになってしまうという意見は過去のものになっています。

ゲームを通してチームプレイや助け合いの精神を学べるという結果が発表されているからです。

ゲームに関するポジティブな影響には、

・兄弟でゲームをプレイした経験をもつ家庭は、兄弟喧嘩が少ない傾向にある
・オンラインゲームでプレイヤーを操作することで、現実でもチームプレイの精神が芽生える
・感情のコントロールを学ぶためにゲームが役立つ
・ゲームを通して周辺視野や動きを感知するスキルが発達し、反応が速くなる

といったものがあります。

ただし、アバターに没入しぎる、ゲーム内のキャラクターに自己投影しすぎるといった傾向のプレイヤーは、日常生活にネガティブな影響があらわれることも併せて発表されました。

つまり、スポーツも度を越して打ち込むと怪我や行き過ぎた指導が問題になるのと同様、TVゲーム(オンラインゲーム)も節度をもって楽しめばよいということです。

これらデジタルに関する基礎研究はまだ途上であり、揺るぎない確固たる学説があるわけではありません。

研究を続けていく過程で、さまざまな発見が追加されたり、常識が覆されたりする可能性もあります。

VRの安全基準もまだ途上

VRはまだ一般向けツールが発売されてそれほど時間が経過していません。

そのため、VRの利用基準やガイドラインに明確な安全基準というものはまだ存在していないのが現状です。

しかし、もしも安全基準が定められれば、企業単位での導入や教育に向けた活用もさらに推進されるでしょう。

オレゴン州立大学保健・人間科学学部の研究者であるジェイ・キム氏は、VRを使用する際に何らかの筋骨格障害のリスクが発生するのではないかと仮説を立てました。

VRはデジタルツールではありますが、PCやスマホのように動かずに使用するのではなく、ゴーグルを装着して全身を動かすことがあるからです。

そこでそれが事実かどうかを調べ、VR使用時にかかる身体的負担を低減するよう、インターフェース設計を改善してはどうかと考え、実行に移しています。

使用VRヘッドセッドは「Oculus Rift」

実験に使用されたのは、OculusのVRヘッドセッド「Oculus Rift」とのことです。Oculusは、米国カリフォルニア州で設立されたテック企業で、フェイスブックテクノロジーが親会社です。

VRのハードウェアおよびソフトウェアの製品開発、販売をおこなっています。

実験に用いられた「Oculus Rift」は、現在では販売を終了していますが、後継機「Oculus Rift S」がリリースされています。

「Oculus Rift S」は、人間工学に基づく設計が特徴で、投げる、つかむといった動作が自然にVRに投影されるコントローラーつきのPC接続型VRゲーム用のヘッドセットです。

・Oculus Rift(S)
https://www.oculus.com/rift/?locale=ja_JP#oui-csl-rift-games=star-trek

VR装着時の負担を調査した方法とは

調査は、オレゴン州立大学とノーザンイリノイ大学の研究チームによって実施されました。

被験者は男性と女性10人ずつの計20人。被験者には関節と筋肉にモーションピクチャーのセンサーをつけた状態で、

・サークル内に出てくる特定のドット指差す
・指を使って特定の領域の色を塗る

という動作をおこないました。

モーションピクチャーは3次元コンピューターグラフィックスの一種で、人間の動きを表現するために利用する技術です。映画やゲームのCGを作るのによく使われています。

VRの利用について調査する実験では、動きとともに筋電図信号を記録することで、筋肉の動きがどのように変化しているかをチェックするようになっていました。

3分間で筋肉痛が発生し作業効率も低下

実験結果は、VRを装着して動作を始めてからわずか3分で、肩こりのような筋肉痛が生じたと発表されました。
また、作業効率も低下したということです。

VRの中では、どんなに重いものを持っても物理的な圧力は生じないはずです。VRで格闘をしても実際に投げ飛ばされたり殴られたりするわけではありません。それなのに、どうして筋肉に負担がかかるのでしょうか?

オブジェクトの高さによって身体に負担がかかると判明

オレゴン州立大学とノーザンイリノイ大学の発表によると、筋肉痛や肩こりが生じる原因は、オブジェクトの高さにありました。

VRの中に出てくる仮想オブジェクトの高さが不適切だと、身体を動かす時に負担が生じ、筋肉痛や肩こりという症状になってあらわれるのです。

作業効率の低下は、筋肉疲労や肩こりからくる痛みなどが作用しておこったのでしょう。

VR関連の基礎研究はまだ始まったばかり

VR負荷

紹介した研究では、「仮想オブジェクトの高さが不適切だと筋肉に負担がかかる」という結果が得られています。しかし、これは「真実」と確定した結果ではありません。

この結果を「真実」や「ほぼ100%確実なこと」とするためには、今後いくつも同様の研究や実験をおこない、検証を繰り返して一貫性のある知見であるかどうかを確かめる必要があります。

現在、VRやAR(拡張現実)関連の身体にまつわる基礎研究は、各国で実施されています。しかし、ツール自体が新しいために研究が充分なレベルに到達するまでにはまだ時間がかかるでしょう。

過去にゲームが子どもを暴力的にするという説が信じられていたように、また、ブルーライトが失明の決定打になると信じられていたように、今日正しいとされるVR関連の結果が覆されることもあり得ます。

安全なVR使用のためにできること

では、VRを安全に企業へ導入するにはどのような点に留意すればよいのでしょうか?

以下に3つのポイントをまとめてみました。

最新の研究ニュースをチェックする

先に述べたように、VRに関する研究や実証実験は途上です。

昨日までの常識が明日の非常識になるような発表が、いつかなされるかもしれません。

VR関連ニュースや学術系のトピックにふれて、比較的新しい情報をいつもキャッチしておくと安心です。

ノウハウのあるプロにコンテンツ開発を依頼する

VRゴーグルは世界各国でさまざまな企業が販売していますが、どの商品にもメリットとデメリットがあります。

企業に適したヘッドセッドはどれか、一括購入とメンテナンスなどのランニングコストを合わせるとどういった商品が最もコストパフォーマンスが高いといえるのか‥‥などは、多くの商品知識があるVRのプロにしか分からないこともあります。

また、コンテンツ制作についても同様で、VRに関するノウハウを蓄積している業者、企業に任せる方が自社単独で制作するよりも良質で安全なものができるでしょう。

過信せず乱用せず適度な利用を心がける

過ぎたるは及ばざるが如し、スマホやPCなど身近となったデジタルツールと同じく、多用し過ぎは厳禁です。

VRは適切なシーンで活用すれば業務効率化につながりますが、誤った方法で使うと却ってそれが社員の負担となり、作業効率を下げてしまいます。

導入に際しても、VRに特化したコンサルタントや制作会社に相談しながら進めていくと良いのではないでしょうか。

ロマンテックジャパンは、高品質・低価格で、ビジネス・産業向けのVR制作・導入を行っています。VR制作・導入の際は、ぜひロマンテックジャパンまでご依頼ください。

 

※この記事はオレゴン州立大学の研究を紹介するものであり、医学的なアドバイスをするのもではありません。医学的なアドバイスが必要な際は、医師などの専門家にご相談ください。

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