近年、VRゴーグルは目覚ましい進化を遂げています。
高画質でありながら軽量化に成功したモデルも多く、将来的にはスマホのような当たり前のデジタルツールとして浸透するのではないかという見方も。
そんな少し先の未来に、企業のあり方はどのように変わっていくのでしょうか?
企業の内外におけるVRの可能性を探ります。
XR市場は世界中でホットに
デジタルツールを活用した新たな体験には、VR(Virtual Reality:仮想現実)、AR(Augmented Reality:拡張現実)、MR(Mixed Reality:複合現実)などの種類があります。
これらは「XR(エックス・アール/クロス・リアリティ)」と総称され、2023年の日本市場は、約34億ドル(約3,666億円)規模に発展すると予想されています。
新通信規格5GがVRを活気づかせる
現在のVRゴーグルは、ある種特別なツールとして用いられています。
これは、VRゴーグルやAR/MRグラスといった機器が総じて高価であり、一般向けに発売されているモデルが少ないことが理由でしょう。
しかし、高速通信が可能になる5G導入に合わせて各国で一般向けモデルの販売が増加するという予想があり、中国や米国のスタートアップ企業は次々に安価なモデルを開発しています。
気軽にVRゴーグルが使える未来はすぐそこまできているといえるでしょう。
VRで企業研修が変わる
では、VR技術が当たり前に身の回りに介在するようになると、企業にどのような活用の可能性が考えられるのか、実例を挙げていきましょう。
まず、有効な可能性として多くの企業で検討されているのが、VRを研修に用いることです。
VRを使った研修には、次のようなメリットがあります。
VR研修のメリット1. コスト削減
研修は総じてコストがかかるものです。
指導育成に関わる人件費や教材費だけでなく、見学や実習を実施する際には、移動コストや実習費用(材料費など)も必要になります。
一方、VRなら一度撮影をして仮想空間を構築してしまえば、機器以外の費用はかかりません。全国から社員を集めなくても、今在籍している事業所やオフィスにいながら研修を実施できるようになります。
VR研修のメリット2. リアルなトレーニングの実現
接客トレーニング、在庫管理や発注のタイミングをはかる店舗運営シミュレーションは、リアリティが重要です。
現実的ではないケースばかりの研修では、いざ現場に出るとうまくいかなかったり、顧客の思わぬリアクションに戸惑ってしまったりするリスクを払拭することはできません。
これは、離職率にも密接に結びついています。リアルなトレーニングを実施することで、研修段階で個々が自身の適性を見極めることができれば長期的には離職率を低下させることができるでしょう。
VR(仮想現実)によるリアルな接客トレーニングは、従業員の自信や肯定感を育成することにもつながっているのです。
VR研修のメリット3. 危険な状況や特殊な条件を再現できる
失敗が許されない状況や再現するのは危険な状況を体験できるのも、VRの大きなメリットです。
事実、ミスの許されない医療現場ではVRを使った訓練が導入されはじめており、手術の事前練習を重ねることで医療技術の向上が期待されています。
企業においても、例えば災害やアクシデントが起こった時の対応、危険人物が店舗を訪れた際の対応など、特殊な条件に備えた研修を実施することは重要でしょう。
VRは、リスクをおかすことなく危険について学べるというメリットがあります。
企業研修のVR活用事例
米国では、ケンタッキーフライドチキンやスーパーマーケットチェーンの「ウォルマート」などがVR研修を活用していますが、日本でもいくつかの企業ですでに利用されています。
VRで疑似体験し事故防止:JR東日本
JR東日本は、労災事故をVRで再現することで危険な状況をあらかじめ体験させるという研修を実施しています。
鉄道の三大労災は、人が列車と接触する触車(いわゆる人身事故)、墜落、関電ですが、JRがVRで再現しているのはこのうちの触車と墜落です。
VRでの再現は、SoftBankの協力によって実現し、グループ会社を含め約1,200名の従業員がそれぞれの職場で事故を疑似体験できるようになっています。
参照情報:SoftBank導入事例
https://www.softbank.jp/biz/case/list/jr/
患者さん中心の理念をVRで:ヤンセンファーマ株式会社
製薬企業のヤンセンファーマ株式会社は、統合失調症の患者のハルシネーション(幻覚状態)を疑似体験する研修教育にVRを導入しています。
患者の状態を知るツールはすでに2001年から米国で活用されていましたが、VRによってよりリアルな症状に近い状態を再現できるようになったとされています。
同社の掲げる「患者さん中心」の理念を社員全体が共有する教育ツールとして、VRが活用されている例です。
参照情報:ハコスコ
https://blog.hacosco.com/case_interview/janssen-medical-vr-schizophrenia/
利用者目線で危険予知:ヒューマンライフケア
介護事業社であるヒューマンライフケア株式会社は、2017年から介護スタッフ向けの教育研修にVRを利用しています。
同社のVRプログラムは、スタッフ目線と利用者目線を両方体験できるようになており、双方の立場を事前に体験することを目的にしています。
VRの特徴である360度の視野を活かして施設内部での移動を疑似体験し、危険が発生しそうな箇所を見つけるのがひとつの目的です。
また、この教育研修では、「スピーチ・ロック」の疑似体験ももうひとつの目的として掲げられています。
「スピーチ・ロック」とは、「ちょっと待って」と声をかけることで言葉によって利用者の行動を制限してしまうこと。これも、双方の立場で体験できるようになっています。言葉の拘束とも称されるこの事例を体験することによって、より利便性の高い介護現場の実現を目指しています。
・参照情報:ヒューマンライフケア
https://www.athuman.com/news/2017/171018_hlc_vrtraining/
企業がプロモーションにVRを活用するメリット
VRの活用の場は、研修やトレーニングといった社内だけではありません。対外的なプロモーションにVRを利用することで、より顧客満足度を高める効果も期待できます。
衝突回避機能を疑似体験:トヨタ
トヨタは自社の手がける車の衝突回避支援パッケージ「Toyota Safety Sence」の機能をVRで体験できるプログラムを提供しています。
顧客は、VRゴーグルを装着することで安全なショールームにいながら、衝突回避や車線はみ出しなどを疑似体験できる仕組み。車内映像を360度見渡せることで、よりリアルな体験ができるとされています。
実際はなかなか体験しにくいことをプレゼンするには、VRのリアルな疑似体験が効果的ですね。
・参照情報:TOYOTA
https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/25496622.html
イメージしにくいものを具現化:IKEA
スウェーデン発の家具メーカーIKEAは、「IKEA VR Experience」というインテリアシュミレーターを提供しています。
VRに構築された部屋を歩き回って家具の配置を確かめたり、引き出しを開ける、オーブンの扉を開閉するといった家事に必要な動作をおこなうことができます。
家具は、店内の展示品を見ているだけではサイズを実感しにくいもの。いざ設置してみたら、スペースが足りずに引き出しが開けられない!というケースも少なくないでしょう。疑似体験によって使い勝手を確認できるのは嬉しいですね。
なお、このシュミレーターでは、100cmの子ども目線を体感することも可能で、子どもにとって危険のないレイアウトを追求できるようになっています。
・参照情報:Steam「IKEA VR Experience」
https://store.steampowered.com/app/447270/IKEA_VR_Experience/
人気女優が目の前に登場「グリコ」
グリコ「ジャイアントコーン」は、綾瀬はるかさんを起用したVRプロモーションを展開しています。
3人の綾瀬はるかさんが「おつかれさまです!」と声をかけるというVR動画は、YouTubeのVRコンテンツとして公開されています。
パソコンでは、マウスでドラッグすることで360度視界を移動させることができ、スマートフォンではVRモードに切り替えてVRゴーグルにセットすることで視聴可能になります。
VRゴーグルが普及すれば、CM動画もこのような手法が一般的になるかもしれません。
・グリコ「ジャイアントコーン」
https://www.glico.co.jp/ice/giant/vr.html
VR機器を気軽に使える未来を企業は見据えていこう
一人に一台VRという時代は、まだ「今」ではありません。
しかし、現在の開発スピードを鑑みれば、近い未来にそれが実現することは想像にかたくないでしょう。特に、日本国内で5Gが解禁になれば、市場の動向は一気に速度を増すことが予想されます。
VRが普及してから企業として関わり方や導入方法を検討していては間に合いません。VR前夜の今こそ、積極的かつ具体的に活用法を検討すべきでしょう。
企業におけるVRの制作・導入は、より高品質で効果的な利用のために、専門家に依頼するのが良いでしょう。
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